昔の木の橋は川が増水するとよく流された。長岡市の信濃川に架かる長生橋は現在の鉄でできたものが3代目。1876(明治9)年にできた初代、1915(大正4)年に完成した2代目は共に木製で、いずれも洪水で流失したり破損したりした

▼そのたびに、人々は新たに橋を架けた。川の両岸を結ぶ交通を確保し、人やモノを行き来させることは地域の発展にとって欠かせなかった。「橋渡し」という言葉は単に橋を架けることだけではなく、人と人をつなぐことも意味する

▼英語で橋は「ブリッジ」。ことしのニュースを振り返ると「ブリッジング」という言葉が記憶に残る。広島市で開かれた、核兵器廃絶に向けた「国際賢人会議」の場である。座長を務めた白石隆・熊本県立大理事長が、核兵器保有国と非保有国の「橋渡し」の意味で使っていた

▼「核なき世界」を実現するために、唯一の戦争被爆国である日本が橋渡し役となることが期待される。ただ日本政府は米国の「核の傘」の下にあることから、核の保有や使用を全面禁止する核兵器禁止条約には加わっていない

▼ウクライナに侵攻したロシアは核の使用をちらつかせる。ミサイル発射を繰り返す北朝鮮は核実験など挑発行為をエスカレートさせる可能性があると指摘される。「核なき世界」の実現には逆風が吹いている

▼それでも諦めるわけにはいかない。日本は、関係国間の橋渡しを模索し続ける必要がある。橋が流されたら再び渡さねば。先人たちもそうしてきた。

朗読日報抄とは?