NHK大河ドラマ「どうする家康」がきのう始まった。江戸幕府を開いた天下人が主人公の大河というと、1983年の「徳川家康」を思い浮かべる方もいるだろう。ドラマの原作で、同タイトルのベストセラーを書いたのが小出町(現魚沼市)出身の山岡荘八である

▼戦時中は海軍報道班員として戦地に赴き、終戦直前には特攻隊の出撃拠点があった鹿児島県鹿屋市に派遣された。帰還が見込めない隊員を連日見送り、遺品を託されることもあったという

▼そんな体験から、平和を希求する心を作品に込めるようになった。大長編となった「徳川家康」では、それまで権謀術数にたけた狸(たぬき )親父(おやじ)のイメージが強かった家康を、太平の世をつくるため生涯をかけた求道者として描いた

▼足かけ18年に及ぶ執筆を終えて67年3月に記した「あとがき」では、今川、織田の両勢力に挟まれて苦難の道を歩んだ家康らの一党と、冷戦下の東西陣営のはざまで生き抜こうともがく日本の姿を重ねた。その上で、家康らが望んだ太平は、まだ世界に根付いていないと書いている

▼そこからさらに半世紀余りがたった現在も、世界平和は実現していない。ロシアのウクライナ侵攻をはじめ、むしろ逆行した動きが目立つのが現実である

▼ただ、家康の若いころは戦国大名が割拠し、太平の世をイメージすることすら難しい時代だったのではないか。そんな中で戦のない世をつくり上げた先人の生きざまは、今だからこそ、いっそう輝いて見えるのかもしれない。

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