もやもやが晴れないまま松の内が明けた。せわしない年末に、政府が敵の基地を攻撃する「反撃能力」を明記した安保関連3文書を閣議決定したからだ
▼先制攻撃にならないか、専守防衛を逸脱するのでは、と不安がぬぐえない。自民党が敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えるよう政府に提言したのが昨年4月末。それから8カ月弱で安保政策を大転換させた
▼国会論戦がほとんどないままの決定だった。安倍政権が2014年に集団的自衛権行使の容認を閣議決定したときは手法の是非も大きな議論になった。今回は政府の筋書き通り進んだ格好だ
▼憲法解釈や根本方針を閣議で変えることについて旧制長岡中学出身の作家、半藤一利さんは「戦前のドイツの手法だ」と話していた。1933(昭和8)年のドイツ国会議事堂放火事件を巡り、ヒトラー内閣は「共産主義者の仕業だ」として言論の自由や所有権を制限する大統領令を閣議決定。後の全権委任法、独裁につなげた
▼半藤さんは、安倍政権は改憲が国民の理解を得にくいから閣議決定を使ったとして「いつの間にか平和憲法を骨抜きにした」と指摘した。岸田政権もその手法を踏襲しているようだ
▼半藤さんが死去して12日で2年。遺作の著書「戦争というもの」の最後の言葉は「戦争は国家を豹変(ひょうへん)させる、歴史を学ぶ意味はそこにある」だった。防衛費増額ありきの議論や政府与党の強権的手法に慣れてはいないか。いつか来た道を歩まないように冷静に見つめ直したい。