民主主義を踏みにじる暴挙が、今度は南米最大国のブラジルで起きた。2年前に起きた米議会襲撃事件に酷似し、「反民主主義」の連鎖に危機感を覚える。
暴力で選挙結果を覆そうとすることなどあってはならない。ブラジル国民は分断と対立を超え、秩序ある民主的な社会を取り戻してもらいたい。
ブラジルの首都ブラジリアで、昨年10月の大統領選での敗北に抗議する右派ボルソナロ前大統領支持者ら約4千人が暴徒化した。
連邦議会や大統領府、最高裁という三権の象徴を襲撃して一時占拠し、建物の一部を破壊。約1500人が拘束された。
ボルソナロ氏は過激な物言いで保守派に支持を広げ、「ブラジルのトランプ」と呼ばれる。女性や少数派への差別的発言や、真偽不明の情報拡散も重ねている。
敗北しても結果を認めないための布石なのか、大統領選の1年以上前から電子投票システムに不正があると根拠なく訴えていた。
大統領が民主主義の基盤である選挙の信頼をおとしめる発言をすること自体がどうかしている。
選挙は、当選した左派ルラ大統領の得票率50・9%に対し、ボルソナロ氏49・1%の激戦だった。
開票後、ボルソナロ氏は選挙に不正があったと主張し、敗北を明確に認めなかった。政権移行は許可したものの、昨年末に渡米する際もなお選挙の不正を強調した。
支持者が暴挙に出た根底にはボルソナロ氏の言動があるだろう。
ボルソナロ氏陣営がトランプ氏の側近と接触し、選挙結果発表後の対応で助言を受けていた可能性も指摘されている。
襲撃事件をボルソナロ氏は「法から外れている」と批判したが、言葉だけのように聞こえる。
扇動された熱狂的な支持者がどんな行動に出るか想像しなかったのか。自らの言動を棚に上げるのは無責任極まりない。
ブラジルでは暴動の数日前から交流サイト(SNS)で「議事堂に行こう」という呼びかけが出回り、支持者は約100台のバスに分乗して集結した。
当局は資金面で支援した人物を特定するなど、誰が事件を誘導したのか洗い出す必要がある。
議会襲撃事件から2年がたった米国では、トランプ氏に対する責任追及の動きが強まっている。
米下院特別委員会が昨年12月に公表した最終報告書は、トランプ政権関係者の証言を基に「議会襲撃はトランプ氏が引き起こした」と断罪し、反乱扇動などの容疑で刑事訴追を司法省に要求した。
一方、トランプ氏は、今年に入っても「人々が抗議したのは選挙に不正があったからだ」と根拠のない主張を繰り返している。
批判を省みず、民主主義の根幹を否定する独善的な為政者の動きを見過ごすわけにはいかない。
