シンデレラに対し、継母はどうしてあんなにきつく当たったのか、考えてみませんか。先日の本紙に掲載されたエッセーで、劇作家の鴻上尚史さんがこんなふうに呼びかけていた

▼相手の立場、この場合は継母の身になって考えられる能力を「エンパシー」と呼ぶ。鴻上さんは、シンデレラに同情する心「シンパシー」と共に、人生を前向きに生きる上で必要なものだとする。とりわけエンパシーは、立場や考え方の違う人たちとやっていくために大切な知恵だと訴えた

▼安倍晋三元首相銃撃事件の容疑者に、菓子や現金などの差し入れが相次いでいるという。インターネット上では刑の減軽を求める署名活動や英雄視する投稿まである。事件を契機に旧統一教会の問題が再び世間の注目を集めたことが背景にあるようだ

▼問われている容疑は重大であり、宗教2世である容疑者への同情心ばかりが先走るのは危険だろう。一方、容疑者の立場でなぜあのような行動に出たのかを考えることは、宗教の名の下で引き起こされる悲劇を防ぐ上で重要なことだ

▼鴻上さんは、人間関係は思いやりや優しさだけではなかなかうまくいかないとも書いていた。世界を見渡すと、隣国に攻め入ったりミサイルを撃ち続けたりという、私たちには理解しがたい動きがある。そんな中で生き抜くためにも、相手の胸の内を読んで対応することが求められるのだろう

▼多様化し、複雑化する世を生きる上で、エンパシーは己の身を守るすべとなるのかもしれない。

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