沿線の山並みは、すっかり雪化粧している。糸魚川駅から長野へ向かうJR大糸線の車窓は冬も美しい。とはいえ、荒天で運休する日も少なくない。冬の山あいを走る鉄道には、美しさと運行の難しさが隣り合う

▼遅ればせながら、この路線が登場する歌謡曲が複数あることを知った。年末の紅白歌合戦にも出場した水森かおりさんの「大糸線」は、悲恋の思いを調べに乗せる。〈寒いホームで背中を丸め 列車を待ってた小さな駅よ〉。人生の喜怒哀楽のうち哀を味わうなら、冬のローカル線はぴったりかもしれない

▼列車と歌、音楽。きっと親和性は高い。県内外の大糸線ファンによる「応援隊」は先ごろ、路線振興を考える集いを開いた。その場で盛り上がったのは、沿線でコンサートを開くなど音楽を活用した誘客プランだった

▼振興策を話し合わねばならないのも、ローカル線を取り巻く環境の厳しさゆえだ。新型ウイルス禍もあり、鉄道会社は都市部の利益で地方路線を維持できなくなった。各社はローカル線の収支を開示し、厳しさを突き付ける

▼大糸線応援隊事務局の糸魚川市によると、路線の存廃論が浮上したころから隊への登録者数が伸び、2600人を超えた。誘客プランの具体化が急がれる。官民の実務者でつくる会議も沿線一体での取り組みを強化するという

▼ただ、この会議の開催は数カ月に1回とか。話し合いのペースが鈍行並みなのが気がかりだ。振興策の議論は特急並みのスピード感が求められるような…。

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