防衛費増額に伴う増税方針を昨年表明した岸田文雄首相が年明けに打ち出したのが「異次元の少子化対策」だ。「子どもファーストの経済社会をつくり上げる」と意気込むが、違和感を持った人もいるのでは

▼首相は子育て環境の充実に向け、将来的な子ども予算の倍増などを掲げる。それは結構だが、政府が少子化に危機感を抱くのは、将来の納税者や社会保障の担い手の確保が危うくなるからではと思ってしまうのは、うがった見方か

▼価値観が多様化した現代は、結婚や出産を望まない人も増えている。お上が「少子化対策」を声高に叫ぶほど、子どもを持つのが当然という風潮につながらないか。そんな空気に息苦しさを感じる人もいるだろう

▼首相は昨年の大みそかに書店を訪れ、ロシアの文豪ドストエフスキーの大作「カラマーゾフの兄弟」全5巻を購入した。作品の最終盤に主人公のアリョーシャが「子ども時代、親の家にいるころに作られた素晴らしい思い出以上に、力強く、ためになるものはない」と語る場面がある

▼幼少時に周囲から愛された経験は、その後の人生で困難を乗り越える力になるといわれる。だが現実は親だけでなく、保育士による虐待も明るみに出ている。子育てする側に心の余裕がなくなってきていると感じる

▼少子化対策を何も「異次元」と息巻く必要はない。子どもたち一人一人が愛され、大切にされる社会を実現する。それこそが長い目で見ると、社会の活力維持や安定につながるのではないか。

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