2020年1月に国内で初感染が確認されたウイルス禍は丸3年がたった。あの春先はマスクが店頭から消え、手作りがはやった。「アベノマスク」は不評で在庫の山ができた。いまや不織布マスクは1枚5円の安値がつくこともある
▼あれから千日余り。1日1枚の使い捨てだとしたら千枚以上使ったのか。国内だけで1千億枚余が人々の顔を覆ったことになる。千思万考したくなるような数字だ
▼「マスクの功罪」。流行初年の秋、こんな一文が新発田市立猿橋小学校の学校便りに載った。マスクや手洗いのおかげで感染が防げている。校長は児童をほめて書く。一方、難点として表情が分かりにくいことを挙げた
▼児童のノートの文字が板書に似ることがある。それほど担任教師の所作が児童に与える影響は大きい。なのに教師がマスクで顔を覆うと表情が読めず、教育効果が薄れかねない。だから声のトーンや身ぶり、手ぶりに工夫を凝らそう。校長は教師に呼びかけた
▼政府は、今春にも屋内でのマスク着用を原則不要にする検討を進める。今後の感染動向によっては慎重な対応が必要だろうが、いずれは着用不要の日が来るはずだ。それでも中学校教師の知人が心配していた。「原則自由なら、マスクを続ける子はきっと多い」
▼仲間と違うことを恐れる気持ちや、表情を隠す安心感が長引くマスク生活で強くなっているという。大人社会も似ている。協調と和を重んじる姿か、あしき同調圧力か。「マスクの功罪」は根深そうだ。