ある男性が作文で半生をこんなふうに振り返った。小学3年の頃に両親が家を出て、姉や高齢の祖母と残された。近所から食べ物をもらい、家からほとんど出ずに育った。父親の借金を返すため、住み込みで仕事を始めると、職場で暴力を受けた

▼逃げ出したが駅名も読めず、電車の乗り方も分からずにすぐ捕まった。30代半ばになって文字を習い始め、自分の人生を文字で書くことができるようになった…。これを読んで、いつ頃の話とお思いだろうか。戦後すぐ? 昭和の高度成長期? 実は昨年書かれたものだ。筆者は40代である

▼日本の識字率は、ほぼ100%といわれている。この男性は例外的なケースなのだろうか。世界各国の若者の識字率をまとめた国連児童基金(ユニセフ)の統計に、日本のデータはない

▼小中学校の教育が義務化されていることなどが「ほぼ100%」の根拠とみられる。文字を学ぶ機会がなかった人を対象にした識字教室に通うのは、貧困や差別などで学習の機会に恵まれなかった高齢者が多いイメージがある

▼しかし、2010年に全国の識字教室を対象に実施された調査では、学習者の2割が30歳以下という。主として不登校を経験した人や、外国にルーツを持つ人だそうだ

▼相対的貧困率が上昇し、国内の在住外国人が増える現在も「ほぼ100%」なのだろうか。国立国語研究所が識字率の調査を始める方針だという。全ての人が学習の機会を確保するための、貴重なデータになると期待したい。

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