真っ先に箸を伸ばすのか、それとも後に残しておくか。好きな食べ物に手を付けるタイミングには、それぞれの流儀がある。今が時季の鱈(たら)はどうだろうか
▼「鱈汁と雪道は後が良い」という。身やあらをじっくりと煮込むほどにうまみが増していく。雪が降り積もった道にしても大勢の人が通って踏み固められた後は格段に歩きやすい。言い得て妙と膝を打つ
▼青森辺りに行くと「じゃっぱ汁」、山形では「どんがら汁」「寒鱈汁」という鍋物もある。山形県鶴岡市出身の作家、藤沢周平も自らのエッセーで地元で珍重される冬の食べ物に挙げていた
▼本県も鱈とは縁が深い。佐渡金山の労働者の食料として重用され、1610年代に入ると、はえ縄漁の漁場が全島に広がった。佐を「すけ」、渡を「と」とも読めることからスケトウダラの語源となったとの説もある(赤羽正春「鱈」)。佐渡鱈は俳句の季語でもある
▼ロシア政府は北方領土周辺でのスケトウダラ漁などの操業条件について、日本と協議に応じない方針を示した。今の状況が続けば、漁や店頭価格への影響も気になってくる。燃料代をはじめとした物価高も続いている。財布を気にせずたらふく、とはいかなくなるかもしれない
▼そうは言っても旬の味覚は堪能したい。「鱈は馬の鼻息でも煮える」という言葉もある。それほどに火の通りがよい魚である。燃料代を多少節約しても食べ頃になるだろうか。捨てるところがないという厳冬の海の幸を食す頃合いを探ってみたい。