衆院議長は立法府の長として高い識見を持ち、広く政治家の範となるべき立場だ。国民の信頼が不可欠なことは言うまでもない。

 しかし議長の説明は今回も不十分だった。国民の疑問に答えようとする姿勢が見えず、責任感もうかがえない。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側との関係を巡り、細田博之衆院議長が、衆院議院運営委員会の与野党代表らと懇談し、教団との接点について説明した。

 細田氏は昨年秋にも2度文書で説明したが、不十分だと指摘された。説明責任を果たしていないとして立憲民主党に詰め寄られ、通常国会の開会早々に説明を余儀なくされた形だ。

 しかし今回も昨年秋以上の回答には踏み込まなかった。教団とは「やましい付き合いではない」とし、国政選で教団の組織票を差配したかも問われたが否定した。

 初めて口頭で答えたとはいえ、非公開で、着座した6人の質問は一人3分に限られた。これでは真相解明ができるはずもない。

 一方で細田氏は、安倍晋三元首相と教団とは「大昔から関係が深い」と証言した。

 自民党安倍派の前身である細田派の会長として、知り得たことはもっとあるのではないか。

 細田氏は2019年10月に教団の友好団体が主催した会合で「会の中身の内容をさっそく安倍総理に報告したい」とあいさつした。

 これについては「リップサービスだった。安倍氏には報告していない」と話した。

 口先だけだったと釈明したつもりかもしれない。しかし会合で聞いた側の受け止めは違うだろう。総理の名を利用した教団側の広告塔と指摘されても仕方がない。

 教団と政治の関係が取りざたされて半年以上たつが、衆参両院の議長は党の調査対象から外れており、細田氏は公の場で語ることも拒んできた。

 今回も「過去のことについて、議長の立場で記者会見し答えるのはふさわしくない」とした。

 理解に苦しむ言い分だ。適切に説明責任を果たし、国民に信頼される政治を実践するのが議長ではないか。記者会見など公の場で、国民に向けて語るべきだ。

 昨年12月に被害者救済新法が成立した。与党はこれで旧統一教会問題の幕引きを図る考えだが、細田氏らが説明から逃げているうちは終わらない。

 細田氏の説明責任について、岸田文雄首相は25日に開かれた衆院本会議の代表質問で、「三権の長たる立法府の議長として、自身の判断で適切に対応すべきだ」と従来通りの答弁を繰り返した。

 昨年4閣僚が辞任した際も、首相は説明責任を求めるだけで、結果的に支持率低迷を招いた。

 同じ轍(てつ)を踏むのか。首相は自民党総裁として手を打つべきだ。