インターネット上で「闇バイト」を募って、殺人も辞さずに次々と強盗を指示する。悪質な手口に強い憤りを覚える。
捜査当局は、指示役とみられる容疑者を拘束しているフィリピン側に働きかけて、首謀者を特定し全容解明を急がねばならない。
警察庁によると、関連が疑われる強盗事件は昨年以降、窃盗などの事件も含め14都府県で少なくとも計20件発生し、同じグループが関与したとみられている。
今月19日には東京都狛江市の住宅で、90歳の女性が手足を縛られ暴行を受けて死亡した。複数人が押し入ったとみられ、広範囲に物色した跡があった。
実行役には、高額の報酬を目当てに応募し、強盗団を結成して資産家らを相次いで襲った疑いがある。捜査当局は、三十数人を既に逮捕した。
犯行グループの全容を解明するためには、指示役を究明する捜査が大きな鍵を握る。
指示役は「ルフィ」や「キム」と名乗る人物とされるが、グループの複数が名称を使い回しているとの見方もある。
警察当局は、マニラの入管施設に収容されている男4人が、特殊詐欺グループ幹部とみて逮捕状を取っており、その中にルフィらが含まれているとみている。日本側は30日、フィリピン政府に強制送還を正式に要請した。
信じられないのは、指示役が入管施設で拘束されたまま強盗を指示していたとみられることだ。
施設内では携帯電話が使用でき、金を出せばエアコン付きの部屋で過ごせるとの証言がある。
日本への送還を逃れるため、現地で事件を捏造(ねつぞう)して判決を受ける収容者がこれまで多数いたという。今回も裁判所で暴力行為の罪に問われている容疑者がいる。
計画的に入管施設を拠点とし、悪事を指図することなど断じて許されない。
広域強盗の手口は、匿名性の高いアプリ「テレグラム」やレンタカーを使う点などが共通する。特殊詐欺とも構図が類似する。
多くの家に電話をかける特殊詐欺より効率がいいと考え、手口を変えた可能性がある。
実行役の中には身元や家族構成を指示役に伝えてしまい、危害を受けるのを恐れてやめられなくなったと供述する容疑者がいる。指示役の卑劣さも厳しく問われねばならない。
一連の強盗事件などを受け、警察庁はネット上の違法・有害情報の通報受け付けやサイト管理者らへの削除依頼の対象に、「殺人、強盗」などを追加する方針だ。監視体制を強化し、事件の未然防止につなげるとしている。
憲法が保障する「表現の自由」への留意は必要だが、重大な犯罪につながる闇バイトの根絶を図らねばならない。