早朝、生後9カ月の娘に髪を引っ張られ、体を起こす。ミルクを与えておむつを交換。出勤する夫を見送り、娘の遊びの相手をしていると、そろそろお昼。離乳食を作って与える

▼娘が昼寝している間に洗濯や掃除をこなし、起きた娘の相手をしていたら、もう夕方。再び離乳食の準備をしながら「さっき作ったばかりのような…」。先日の本紙に載った、育児休業中の女性の1日である

▼時には寝かしつけに苦労する。寝たと思って布団に置けば泣いて、の繰り返し。へとへとになる。育休を取った男性が子育てをする場合も同様だろう。パートナーと協力し合うとしても、子どもが幼いうちは自分の時間を確保することすら難しい

▼そんな時期に、技術革新やビジネス拡大に向けて新たな知識や技能を身につけろというのは、相当にむちゃな注文ではないのか。岸田文雄首相が国会答弁で、育児中などのリスキリング(学び直し)を後押しすると述べたことに批判が集まっている

▼首相はきのうの答弁で、リスキリング支援について「本人が希望することが前提」と釈明したが、取り組める人がそういるのかどうか。当初の答弁であえて「育児中」に言及したあたり、子育て現場の実態が見えていない姿が透けてくる

▼「休業」と称してはいるけれど、育休中に心身が休まることはめったにないだろう。むしろ休日と呼べる日は1日もないはずだ。「異次元の子育て支援」と息巻いてみても、現場の視点と次元が異なるようでは心もとない。

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