「暦の上では、もう春ですが…」。立春になるとテレビの天気予報などでよく聞かれるフレーズだ。だいたいその後にはまだまだ寒さが続くのでご注意を、と続く
▼長岡市栃尾地域に「見るなの花座敷」という昔話が残る(水澤謙一編「越後の民話第二集」)。男が祭りでかわいい娘と出会い、家に泊めてもらう筋立てだ。山奥の家は座敷が12部屋もある。娘は買い物に出るが、留守中に2番目の座敷は絶対に見ないでくれと頼む
▼1番目は松、3番目は桜、4番目は椿…。座敷には四季の花々が咲き誇っており男は驚く。我慢できずに2番目をのぞくと、そこは2月の間で梅が咲き、ウグイスが飛び回っていた
▼帰宅した娘は、あの座敷を見たなと問い詰める。男が見ていないと言い張ると、娘はウグイスになり山へ飛び去る。この話は「見るなの座敷」の名で東日本に多く、とりわけ本県に多彩なパターンが残っているという
▼なぜ本県に多いのか。それはどこよりも雪が深く、冬が長いからではないか。こう勝手に想像する。長岡も上越も雪が最も積もるのは、例年ならこれから1週間ほどだ。立春の前後は寒波や雪崩など最も気の抜けない時季なのだ
▼花座敷の昔話は、2月はまだ浮かれている季節ではないと戒めているのだろうか。梅は「春告草」、ウグイスは「春告鳥」と称される。きょうの紙面には早咲きの梅が載っているが、新潟の開花の平年値は3月11日だ。冬が厳しく長いほど、春本番の喜びが膨らむのがわが故郷である。