自然科学の世界では、多数派の意見が正しいとは限らない。有名な例ではガリレオの地動説がそうだ。多くの人が天動説を信じる中で、動いているのは地球の方だと訴えた彼は異端審問にかけられた。現代では地動説が正しいと誰もが知っている

▼20世紀後半にも、宇宙最大級の爆発現象「ガンマ線バースト」が起こる場所について、銀河系内かもっと遠くの宇宙の果てかという論争があった。学者の多数が銀河系内説を支持したが、その後の解析で宇宙の果ての方に軍配が上がった

▼がん免疫療法の開発に道を開き、2018年のノーベル医学生理学賞を受けた本庶佑さんは、常に通説に立ち向かう姿勢で新たな発見を続けてきた。その背景には「科学は多数決ではない」という信念があったという

▼では、この事態はどう受け止めればいいのだろう。原子力規制委員会は原発の60年を超えた運転を可能にする新制度案を多数決で決めた。山中伸介委員長ら4人が賛成したのに対し、地質学が専門の石渡明委員が反対した

▼規制委は原発の安全に関わる各分野のスペシャリストが名を連ねる。意見が割れたまま重要案件を決定するのは極めて異例だ。原発の活用に転換した政府の姿勢を追認しているように見える

▼石渡氏は「科学的、技術的な新知見に基づくものではない」と述べた。賛成した委員からも「せかされて議論した」という声が漏れた。政治的な思惑からは離れ、科学の視点で真理を見極めなければ規制委の存在意義が問われる。

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