「春闘」が本格化している。昨年12月の消費者物価指数は前年同月比で4%上昇し、41年ぶりの伸び率となった。猛烈な物価高で実質賃金は8カ月続けてマイナスである
▼物価上昇を上回る賃上げがないと、暮らしはさらに厳しくなる。財布のひもを皆が締めれば、売り上げは減り会社経営も打撃を受ける。これは労使ともに分かっているはずだ
▼なのに今年の賃上げは2%台にとどまるという予測が、早くも調査機関から出ている。春闘は半世紀以上の歴史がある。労使のつばぜり合いが経済の活力を生み、かつての高度経済成長を下支えしたともいえる
▼〈春闘の闘の一字がゆらぎけり〉坂埜紅雲。「春闘」は歳時記に載る春の季語だが、その期待感が薄らいでいるのか。雇用者全体の労働組合組織率は、昨年は16%台で近年低下が止まらない。一方で立場の弱い非正規雇用は増え続ける
▼移ろう時代の反映として「春闘」を消えゆく季語に挙げる俳人もいる。大幅賃上げへ今年こそ労使がスクラムを組むときだろう。日本固有の多難な春闘も、その字句を広く世界に当てはめると、今年ほど過酷な「春の闘い」はあるまい
▼ロシアがウクライナに侵攻して間もなく1年。戦死者は10万人を超えたと伝えられるのに、戦闘はやむ気配がない。トルコ・シリア大地震の被災者は世界保健機関(WHO)によると約2600万人に及ぶ。生き延びた人も、生活再建に向けた闘いが待つ。世界中の「春闘」に、優しい陽光が等しく届きますように。