友達として望ましいのはどんな人物か。徒然草におなじみの段がある。〈よき友三つあり。一つには物くるる友。二つには医師。三つには知恵ある友〉

▼打算の臭いなきにしもあらずだが、昔も今も医師が身近にいれば心強い。何より、いざという時に気兼ねなく相談できる。病身にとってはあれこれ気前よく振る舞うご仁よりも大切な存在に違いない

▼ドイツの詩人シラーの金言に「友情は喜びを2倍にし、悲しみを半分にする」がある。かかりつけ医との関係もこのように麗しいものであってほしい。厚生労働省は、信頼できる医師をかかりつけとしていいと呼びかける

▼こちらが無二の友と思っていても、相手がいつも親身になってくれるとは限らない。新型ウイルスの流行が始まったころ、いつも通う医者から診察を断られるケースが相次いだ。急速な感染拡大が診る側のゆとりを奪った

▼かかりつけ医の機能について政府が制度整備に乗り出す。夜間診療や在宅医療といった、それぞれの医療機関が担うことができる役割を示し、慢性疾患のある高齢者らが「友」を選ぶ際の参考にしやすくする。まずは利便性の向上に向けた一歩となる

▼日本医師会の研究機関の調査では、かかりつけがいると答えたのは70歳以上で7割超、29歳以下は3割を切る。一般に若者の方が丈夫だろうから無理もないのかもしれない。元気な人は病人の心情が分からないというが、いつかは通る道である。よき友の在り方について幅広い議論が欠かせない。

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