日本画家で上越市出身の小林古径が生まれて今月で140年となった。昨年は同郷の児童文学作家、小川未明の生誕140周年だった。同時代にこれだけの人物を輩出した、上越市高田地区の豊かな文化的土壌を改めて感じる
▼高田といえば雪国のイメージが強い。2人の作品にふるさとがどう反映されているのか。未明の代表作「赤いろうそくと人魚」は、こう始まる。〈人魚は、南の方の海にばかりすんでいるのではありません。北の海にもすんでいたのであります〉
▼未明文学の特色の一つは北国をモチーフにした「北方性」といわれる。対照的に古径の代表作には、花鳥風月や人物を美しい線と色彩で表現したものが多く、雪国の風景を描いた作品は見当たらない
▼古径は3歳で高田を離れ、父が住む新潟市に転居している。13歳までに父母と兄を亡くし、妹と2人きりになった。高田について周囲には「冬は雪が多く、暗くて嫌です」と話していたとされる。一方で家族の供養のため地元に墓を建立するなど先祖の地を大切にしていた
▼高田は城下町として発展し、2人の家系は高田藩士をルーツに持つ。小林古径記念美術館の統括学芸員の笹川修一さんは「当時の城下町は人や文化の往来が盛んで藩士は文化の担い手だった。文化人を生み出す素地があったのでは」と語る
▼高田城址(じょうし)公園には古径美術館と未明の文学館が立地する。近代日本の文化を彩った2人の生涯や業績を手軽にたどることができるのは、なんともぜいたくだ。