民俗学者の宮本常一は列島中を歩き回った「旅する巨人」だ。瀬戸内海の島育ちもあってか、離島の生活向上に尽力した

▼佐渡への思い入れがすごかった。特産おけさ柿、芸能集団「鼓童」の前身「鬼太鼓座」、旧小木町で民具3万点を集めた博物館…。これらの振興や設立の恩人だったのは有名な話だ。だが最初は島民のやる気のなさに手を焼いたという

▼旧羽茂町に招かれた時、集まったのは女性だけ。「男はどこにいるのだ。たばこでもすって世間話しているのか。それで村がよくなるものか」と怒鳴って帰ろうとした。住民は大慌て。これがきっかけで柿生産に本気になったと著書「日本人のくらしと文化」で振り返っている

▼島民に自主性がなければ、補助金は逆に害になると繰り返し訴えた。離島振興法の支援対象である有人離島は全国で256。その総人口は2020年時点で33万人台。65年間で3分の1に減った。佐渡も5万1千人になり同期間で半分以下に、粟島も同様だ

▼政府は外周100メートル以上の島の数を35年ぶりに数え直した。地図の電子化による精度向上で、約7千から約1万4千と倍になる。本県も92から333に激増する。海に浮かぶ岩場なども含まれるようだ

▼日本の排他的経済水域(EEZ)の面積は世界6位でロシアや中国より広い。海洋権益や安全保障の面で正確な離島数の把握は大切だろう。ただ、宮本が願ったのは人の住む個性豊かな島が増えることだった。いま一度、島国の原点をかみしめたい。

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