「先生、熱が出たら診てもらえますよね」。持病の診察のついでに、軽い気持ちで尋ねた。30年来かかりつけの内科医である。いつも穏やかな先生の顔がこわばった

▼「いや、だめなんです。まず電話ください。別の医院を紹介します」。オミクロン株の感染拡大が止まらない。すぐ診てもらえると思っていた。それが登録申請に基づき、県が指定した医療機関しか診察できない原則だという

▼県のホームページに診療・検査ができる医療機関が300以上公表されている。指定には一般患者と発熱者らが接触しない動線の余裕が院内で必要とされる

▼「うちのような小さな待合室では、患者を分ける広さが足りないんです」。その前日、発熱した男性が窓口に来たが診察を断ったという。例年ならインフルエンザの流行期で、待合室には発熱患者が大勢並ぶ。なのに、この冬は診察できない。「どう説明したらいいか…」と医師は恐縮した。まず、かかりつけ医へ電話。さもなくば県などの専用窓口に連絡するのが診察の流れだ

▼県は、感染者の濃厚接触者への連絡について家族以外は感染者本人に任せるとした。保健所の負担軽減策だ。感染者にとって濃厚接触の告知は気が重かろう。その一報で職場の同僚や友人は自宅待機を迫られる

▼熱があって寝込んでいる時、誰が濃厚接触者かを判断して連絡するのは相当しんどそうだ。一方で、新型ウイルスの診療に加われない医師もいる。「第6波」は、この国の医療も押し流そうとしている。

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