緑が濃く、鳥たちもにぎやかになる。周りは合格だ、就職だとやる気と笑顔に満ちている。なのに、自分だけが取り残された感じで、気持ちがふさぐ。季語でいう「春愁」なのか

▼心配や不安を聞いてほしい。身の上相談をしたい時季でもある。この国のメディアで最初に人生相談コーナーを設けたのは、明治の女性雑誌の先駆「女学新誌」という。程なく、東京新聞の前身「都新聞」のコーナーが人気を集めるようになる(山田邦紀「明治時代の人生相談」)

▼悩みは時代を映す。都新聞には飯を3杯食べるという奉公人の声が載った。「主人は私を大飯(おおめし)食いと嫌みをいう」。回答は「大食とは思えない。ご主人は働きが足りぬという意味で言っているのでは」と一層の勤勉を勧めた

▼迷信からの解放も大切な役割だった。「カラスにふんをかけられた。不吉というが」と不安がる女性に対しては「そのような伝説は当てにならない」と言い切った

▼相談は今もにぎわう。劇作家の鴻上尚史さんは著書「ほがらか人生相談」で、就職失敗と失恋で絶望し「気晴らし法」伝授を願う男性に答えた。「大丈夫」を口癖にすべし、と。加えて、自分の年齢が10歳若返ったと考えてみてはと提案した。前向きな気持ちになれば、やる気も出るあんばいだ

▼行政の電話相談は病気や貧困など深刻な悩みにも応じている。一方、メディアでは「大丈夫」「もう頑張るな」といった脱力系の助言も目立つ。ほどよく力を抜くことが、人生の達人への道なのか。

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