同世代の知人から、子どもの就職活動が始まったという話を耳にするようになった。ウイルス禍で制約の多いキャンパス生活を強いられた。自己PRに悩んでいるという

▼二十数年前はバブル崩壊のあおりを受け「超氷河期」といわれた。「若干名」の採用枠に数百人が押し寄せるのも珍しくなかった。今やパソコンやスマホで応募するのが一般的だが、当時は履歴書をせっせと手書きした

▼合同説明会で列をなす学生の表情は疲弊していた。3次、4次と面接を重ねても内定が届かない。正社員を諦めフリーターを選んだ人、不本意な就職先になじめずドロップアウトした人もいた。「勝ち組」「負け組」と区別されることもあった

▼2006年に第1次安倍晋三政権が「再チャレンジ政策」と銘打ち、非正規社員の待遇改善や雇用支援に乗り出した。しかし、目覚ましい効果が出る間もなくリーマンショックに見舞われた。失業者が急増すると、氷河期世代は置き去りにされた

▼政府が再び大規模な支援策を掲げたのは売り手市場が加速した19年。3年間で正規雇用を30万人増やすという目標だった。ところが21年までに増えたのは3万人。わずかに設けられた公務員の中途採用試験に殺到する構図は20年前と変わらなかった

▼支援は24年度まで延長されたが当事者は既に人生の折り返しを迎えている。経済や政治の風向きに翻弄(ほんろう)された人からは「何を今更」という声も漏れる。「生まれた時代が悪かった」と絶望させてはならないのだが。

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