〈春の日と親類の金持ちは、くれそうでくれない〉。本県にこんなことわざが残る。春彼岸も過ぎ、日の入り時刻はいつしか午後6時を回った。帰宅してもまだ明るいと感じる勤め人も増えていよう
▼一方、金持ちの親戚はいつも「あれも買ってやる。こづかいもくれてやる」と言うのに財布のひもはなかなか緩まない。冒頭の言葉は「日が暮れる」と「お金をくれる」をかけたしゃれである
▼「その気持ち分かる!」。働き手の中には、こう言いたい人も多いだろう。春闘は都会の大手企業ではヤマを越えた。いまは地方の中小企業で賃上げ交渉に熱が入る時季だ。大手では近年にない「満額回答」が続く
▼中小企業が多い本県には、約10万の民間事業所で100万人ほどが働く。労組のない職場も多い。インフレや物価高騰は世界規模の様相だ。現場の社長や親方も、できればドンと給料を上げてやりたいだろうが、原材料の値上げも続く。中小の労働者側にとっては「くれそうでくれない」状況になってはいないか
▼国内の1月の実質賃金は、前年同月と比べてマイナス4%を超えた。大手ですら、春の賃上げでも実質賃金の減少をカバーできない状況が生じている
▼経済協力開発機構(OECD)によれば、2021年の日本の平均賃金は34カ国中24位。額は米国のほぼ半分、19位の韓国にもとっくに抜かれた。このままでは海外へ、都会へと人材の流出が続くだろう。「くれそうでくれない」などと、ぼやいてばかりではいられない。