東芝の元技術者、後藤政志さん(73)は東京電力柏崎刈羽原発の格納容器の設計にも携わった。格納容器は事故が起きた時に放射性物質を閉じ込める「五重の壁」の一つだ

▼後藤さんが同僚と容器が破損する可能性を議論しようとした時のこと。その中の一人に「若い技術者が怖くて設計できなくなる」と制止された。物が壊れるのは当然なのに、原子力の世界では言ってはいけないのかと衝撃を受けた(平野恵嗣「もの言う技術者たち」)

▼2009年に会社を退職すると、10年に技術をテーマに同じ考えの仲間と本を出版。「地震による機能・装置の故障や発電所内が停電になる全電源喪失事故では(中略)多重化された安全系も一気に突破されてしまう」と警鐘を鳴らした。11年の東日本大震災で、それは現実になった

▼技術は失敗を受け、改良を重ね、進歩して、安全を確保できるようになるといわれる。だが、原発で失敗が許されないのは、福島原発の現状を見れば明らかである

▼放射性物質で汚染された水を浄化した「処理水」の海洋放出に地元の理解は得られていない。溶け落ちた核燃料(デブリ)がどこに、どのくらいあるのか、詳しくは分からない。取り出す計画は遅れ続け、処分場所は決まっていない

▼後藤さんは事故後「事故の対策が取れないのなら、原発に対してノーと言うか、事故を許容するかのいずれかしかありません」と訴えている。後藤さんの格納容器の話を遮った同僚は今、どこで何を思っていることだろう。

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