桜の開花を待っていたように、満開だった紅梅が散っていく。小さな裏庭では、ジャスミンに似ているともいう梅の香りも消えていく。梅の木の下では二輪草が小花を咲かせている

▼膝をつき、その白い花の匂いを嗅ぐ。花粉症のせいか、鈍感なためか、香りが分からない。むしろ花を包む、湿った土の匂いが快い。芳香は「ふくいくたる」とか「かぐわしい」とか形容される。でも、辞書には「いい匂い」などとあるだけで、とらえどころがない

▼日本植物学の父と称される牧野富太郎は、千を超す新種に命名した。「なぜ花は匂うか」という彼の優しい随筆がある。「花は黙っています」「清楚(せいそ)な姿でただじっと匂っているのです」

▼花が匂い、きれいに咲くのは、昆虫に花粉を運んでもらうためという。匂いで花の御殿に誘い、蜜でもてなす。数え切れないほど種類がある虫の好みに匂いを合わせる。それもこれも種や実をつけ子孫を残すため。もちろん人のためではない

▼統一地方選が熱を帯び、桜並木を街宣車が走る。県議選なら、本県は立候補した71人が4年ごとに咲き競う花々ともいえよう。公約は有権者の票を誘う、花の匂いのようなものか。人口減少や原発再稼働、医師不足…。難題解決の訴えは、ふくいくたる「いい匂い」がする

▼だが、それが異口同音の党派の訴えだけならさみしい。住民の悩みや期待は虫と同じで多種多様だ。地元に根ざした候補ならではの匂いを嗅ぎ分けたい。実のなる選挙戦を盛り上げてほしい。

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