ここ数年、韓国の小説やエッセーが数多く書店に並ぶ。新潟市出身で、日本でもベストセラーになった「82年生まれ、キム・ジヨン」も手掛けた翻訳者の斎藤真理子さんは、人気の背景を「文化が似ていて読者がアプローチしやすい」と指摘する

▼韓国でも村上春樹さんら日本文学の翻訳作品が国内の作品を上回るほどの人気だという。似たような文化の土壌に暮らしながらも、互いを見つめる視線には時に負の感情が入り交じる。歴史問題が絡む時は、そんな傾向がとりわけ強い

▼政府は「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産への推薦を決めた。韓国側は、戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働させられたと主張して反発していた。そのため政府は一時、本年度の推薦見送りに傾いていた

▼日本側にすれば、金山の遺産的な価値は江戸時代に独自の技術で質の高い金を量産した点にある。韓国のいう歴史問題とは直接の関わりはない。文化と歴史認識は、切り離して考えるべきだろう

▼ただ両国関係が戦後最悪といわれる中、公式見解を述べるだけで理解を得るのは難しい。論争をして勝ち負けを決めるという話ではない。腹を割った相互理解が欠かせない

▼日韓関係改善について話し合う外務省の有識者会合が2018年に出した提言に「相手国にいる知人の『個人の顔』をすぐに目に浮かべることができるなら、無用な反感は生まれない」という一節があった。両国政府の中で、互いの顔を思い浮かべられる間柄の人はどれくらいいるのだろう。

朗読日報抄とは?