「三国一の幸せ者」や「三国一の花嫁・花婿」などと、以前はよく言われたものだ。「三国」とは日本と震旦(しんたん)(中国)、天竺(てんじく)(インド)を指す。昔の日本人にとって天竺は、はるかかなたの遠い国だった

▼平安時代末期に成立したとされる「今昔物語集」は、この三国にまつわる説話が収められている。全部で千を超える説話の冒頭部分は、お釈迦(しゃか)様の生まれた時や悟りを開いた際の様子が描かれる。仏教への信仰心があつい当時、インドは親しみと敬意を抱く対象でもあったのだろう

▼それから約900年。昨年末時点の推定で、インドは三国一どころか世界一多い人口を有するようになった可能性がある。人口減少に転じた中国よりも、インドに目を向けている日本企業も多いという。インド映画も国内外で人気だ。製作本数では既に米国を上回り世界一になっている

▼各国はその外交姿勢も注視している。日米欧をはじめとした自由主義陣営かと思いきや、ロシアや中国側の枠組みにも、ちゃっかりと加わっているからだ。全方位外交と言ってもいいだろう

▼ロシアがウクライナに侵攻する中、双方と対話できる立場は貴重な存在ともいえる。国際社会は新たな冷戦に向かっていると指摘されることもあるが、独自の立ち位置から戦闘を止める糸口を探ってもらいたい

▼もっとも、本来そうした役割を標ぼうしていたのは平和主義を掲げる日本であったはずだ。世界平和の実現に向けて「三国」はいずれも果たすべき役割を問われている。

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