食料品をはじめ値が上がる品が増える中、こちらは下がってため息が出る。4月から公的年金額が0・4%引き下げられる。2年連続のマイナスだ。国民年金は満額で月259円減、厚生年金なら夫と専業主婦のモデル世帯で同903円減となる

▼指標となる2018~20年度の賃金変動率が、ウイルス禍などの影響でマイナス0・4%だったことが理由の一つという。年金制度は現役世代が納める保険料で高齢者を支える「仕送り方式」だ。現役世代の賃金が下がれば年金額も減る

▼欧米や韓国では平均給与がこの30年で大きく伸びた。一方、日本はほぼ横ばいが続く。先進国では下位の水準だ。企業の稼ぐ力が弱まり、利益を出すため賃金を抑制してきたことが背景にあるという

▼ことしの春闘がスタートした。安倍政権以降は政府が経済界に賃上げを要請する「官製春闘」が定着した。大企業で働く正社員は恩恵を受けたかもしれない。しかし、国民全体の賃金は上がらなかった

▼ウイルス禍で飲食業や観光業は打撃を受けた。特にパートや派遣社員として働く非正規労働者は「雇用の調整弁」の役割を押しつけられることも多く、感染拡大で仕事を失った人も多い。労働者全体の4割弱を占める非正規労働者の賃金が下がれば、年金の減額にもつながる

▼岸田政権は「成長と分配の好循環」を目指すというけれど、現状は賃金も年金も下がる悪循環に陥りかねない。賃金が上がる手だてを講じないと、底のない沼にのみ込まれるのでは。

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