春の風物詩ではある。同じ黄色でも花なら人の目を楽しませるが、こちらはかなり厄介ものだ。海を隔てた大陸から黄色い砂ぼこりが襲来した。本県でも、きょうまで黄砂に注意が必要という
▼洗濯物は外に干せず、花粉症などアレルギーのある人にはダブルパンチとなる。車のフロントガラスは白っぽく曇ったようになる。大気中の見通しも悪くなり、乗り物の事故を引き起こしかねない
▼太古の昔から人々を悩ませてきた。環境省によると中国では紀元前1150年ごろの記録に黄砂を指す「塵雨」という言葉がある。韓国では西暦174年の記録が最古らしい。当時は怒った神が土粉をまいたと信じられており、為政者はこの現象を非常に恐れたという
▼黄砂について、にわか勉強していると「霾る」という言葉に出合った。「つちふる」と読む。文字通り「土降る」現象を意味する。春の季語でもあるようだ
▼〈人類の歩むさみしさつちふるを〉小川双々子。俳人の言う「人類の歩むさみしさ」とは何だろう。科学の発展に伴って生じる不都合のことだろうか。黄砂には大陸の大気汚染物質が含まれている可能性がある。核実験で生じた放射性物質を運んでくるのではと心配されたこともあった
▼私たちが暮らす地は大陸と隣り合っていることを改めて感じる。海で隔てられていても、空はつながっている。隣人である関係からは逃れようがない。東アジアの一角で、隣人同士がいかにして生きていくのか。砂ぼこりが舞う中で考える。