先日、出版社の大きな広告が全国紙に掲載された。ドイツのメルケル前首相を思わせる手元のアップ写真に、こんな言葉が添えられていた。「男でも、首相になれるの?」
▼女性が16年間トップを務め、内外で手腕を評価されたドイツでは今、子供がこうした質問をするという。くだんの広告は「わずか16年で、常識なんてぱっと変わる」と訴えていた
▼人気映画シリーズ「007」では主人公の英国人スパイ、ジェームズ・ボンドの冷徹な上司「M」を4人の俳優が演じた。3代目として、1995年から17年間務めたジュディ・デンチさんは初の女性。モデルは実際の女性長官だという
▼6代目ボンドのダニエル・クレイグさんの最後の出演作が昨秋公開された。この作品ではエージェントを引退したボンドから「007」のコードナンバーを引き継いだのは女性という設定だった。7代目のボンドを誰が務めるかは未定だが「ノンバイナリー」になる可能性も取りざたされる
▼2進法を表す「バイナリー」に打ち消しの「ノン」がつくノンバイナリーは、男でも女でもない中立の性別を指す。欧米では、法的文書にノンバイナリーの記載を認める動きが拡大している。英国在住のライター、ブレイディみかこさんによると現地の中学にはノンバイナリーの教員が配置され生徒の相談に乗る
▼ボンドの相手役は「ボンドガール」「ボンドウーマン」と呼ばれ、毎回注目を集めてきた。7代目がノンバイナリーになれば、何と呼ばれるだろう。