その圧倒的な速度や運動能力で、日中戦争以降の空中戦を席巻したのはゼロ戦と通称される零式戦闘機だった。ただ、攻撃は最大の防御という思想の下、軽量化を追求した機体は防御面が軽視された。対戦国の研究も進み、太平洋戦争では日本軍の勢いと軌を一にするように苦戦するようになった

▼一方でゼロ戦に詰め込まれた技術は戦後、新幹線の開発につながったという。JR九州初代社長の石井幸孝氏は著書「国鉄-『日本最大の企業』の栄光と崩壊」で「新幹線の軽量車体や高速空気力学の理論にはゼロ戦の経験が活(い)かされている」と明かした

▼列島の動脈である新幹線は昭和から平成、令和にかけ「より速く」を追い求めてきた。上越新幹線も今春のダイヤ改正で新潟-東京が最大7分短縮され、最速1時間29分で結ばれるようになった

▼時間短縮を知らせる先日の新聞広告には「7分でできること」をテーマに、利用者から寄せられたアイデアが数多く掲載され、読んでいて頰が緩んだ。「絶妙な半熟卵を作れる」「筋トレ、腹筋300回」「駅弁1個を完食」…。一連のユニークな発想も平和であればこそ、だ

▼新幹線に乗り、家族や友人らと再会を果たす方々もおられよう。新型ウイルス禍で、しばらく顔を見られなかった遠方の人であるなら、たとえ数分でも短縮の喜びは増す

▼ただ、車窓の風景を眺めたり、座席で本のページを繰ったりする時間も味わい深い。そんな非日常の時間が短くなるのは、いささか寂しくもある。

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