春の風というと穏やかで温かな印象がある。それでも、ひとたび吹く方向が変わるなどすると、たちまち荒々しく冷たい風にさらされることがある

▼四方を海に囲まれた島国に暮らす日本人にとって、古くから海は日々の糧を得る場であり交通の場であった。海上を安全に行き来するためには、風の動向を読むことが欠かせない。正しく読めるかどうかは死活問題だった

▼そんなこともあってだろう。風という言葉には「世間の動きや流れ」といった意味もある。世の中の傾向のことを「風潮」と呼び、時々のなりゆきや動向を指して「風の吹き回し」という

▼「風圧」は物事が進んでいく勢いが盛んなことの例えとしても使われる。風圧が増していくことになるのか。衆院の解散総選挙に向かう「解散風」である。衆参5補選で自民が4勝したことから、強まる気配も漂う

▼この結果を勝利と受け取るか、内容が悪いと分析するか。見方は交錯しているようだ。岸田文雄首相はきのう、解散は考えていないと述べたが額面通りかどうか。首相が有利な時期に解散できる特権には疑問の声もあるとはいえ、岸田氏は風の動向を読みながら、解散戦略を練るはずだ

▼選挙も風に絡めて語られることが多い。「風が吹く」と言えば、その時の社会の動向により特定の方向に結果が導かれるような状況を指す。逆に「風は吹かなかった」と言うこともある。この先風は吹くのか。そして風向きはどちらだろう。政界がざわついてくることは間違いない。

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