食生活の変化で、現代人が食べ物を咀嚼(そしゃく)する回数はずいぶん減ったという。戦前は1回の食事にかける時間が約22分で、かむ回数は1420回だったが、現代では約11分、620回に減ったという調査結果がある
▼一口につき、30回かみなさいと言われることがある。19世紀の英国で首相を務めたグラッドストーンは元気の秘訣(ひけつ)を問われ「私は神から32本の歯をいただいた。だから、いつも32回かむことにしている」と答えた。これが「30回」の教えの源流らしい(山田好秋「咀嚼をそしゃくする」)
▼もっとも麺類をはじめ、あまりに長くかみ続けると、おいしさを損なう食べ物もあるような。「30回」は金科玉条というよりは一つの目安なのだろう。おいしいと思える範囲でしっかりとかむことが体にいいといえそうだ
▼回数はもとより、食べ物をしっかりと細かく砕くことも大切だという。かむ能力が低い男性はメタボリック症候群になりやすい-。そんな調査結果を、新潟大大学院医歯学総合研究科の小野高裕教授らのグループがまとめた
▼かむ能力が低いと歯応えのある野菜などを食べる機会が減って栄養バランスが悪くなる。研究グループは、こうした状況がメタボにつながりやすくなると指摘する
▼「咀嚼」には文章や言葉の意味をよく考え理解するという意味もある。中途半端な理解で動けば思わぬ失敗を招く。多様な考えにバランスよく触れ、自分なりに咀嚼することも大切だろう。まずはわが身に、そう言い聞かせてみる。