白、黄、紫、桃色…。赤だけでも何種類あるのだろう。そんなことを思いながら、新潟市の萬代橋を歩いて通勤する幸運をかみしめる。長い橋が色の見本市と化す、恒例のチューリップフェスティバルもフィナーレが近い
▼「チューリップ王国・新潟が生まれた背景の一つにヤブコウジ事件があるんです」。昨年まで県立植物園の園長だった日本植物園協会専務理事の倉重祐二さんが教えてくれた。オランダが隆盛を誇っていた17世紀前半、チューリップはその美しさから投機の対象になる
▼球根1個が家1軒と交換されるほどの狂乱の後、突如価格は暴落する。これが史上初のバブル経済、恐慌という。明治中期、新潟でも赤い実が縁起がいいとされるヤブコウジのブームが起き、大金が動く
▼現在の新潟市秋葉区を中心に1鉢が今の価格で2千万円にもなり、過熱をいさめる知事諭告が出た。結局バブルははじけ、夜逃げも出た。だが地元では、希少な園芸植物が巨利を生むとの記憶が残った。それが伏線となり大正期、園芸農家がチューリップに目をつける
▼気候風土が栽培に適していた運もある。「園芸品種は、その時代の美意識や社会状況を反映した、生きた文化遺産です」。倉重さんの言葉に納得する
▼今年は桜をはじめ草花が早々に咲き出し、らんまんたる姿を競う。本県はチューリップやユリの切り花生産が全国トップ級。アザレアやボケ、シャクナゲなどの大産地でもある。花と緑に彩られるこの時季の県民は恵まれている。