米大リーグで今季から導入されたルールの一つに「ピッチクロック」がある。投手は走者がいなければ15秒以内、走者がいれば20秒以内に投球動作に入らないと1ボールが加えられる

▼大谷翔平選手も違反した。中継を見ていると何とも落ち着かない。投手がボールを受け取ると画面の片隅でカウントダウンが始まる。「大谷、早く投げて」と心の中でつぶやく。試合よりもその数字に目が行ってしまう

▼試合時間の短縮を目的に導入され、打者も残り8秒までに打つ準備をしないと1ストライクを取られる。投手、打者ともにせわしなく感じる

▼実は日本のプロ野球でも、走者無しの場合にだけ大リーグと同じ15秒ルールが存在する。2009年に導入され、初適用されたのは当時横浜の工藤公康投手。日本の風土になじまなかったのか、最近は適用されることはほとんどないが、日本野球機構(NPB)によると、今もルールは生きているという

▼大リーグのルールの多くが日本でも採用される。走者がいる場合も適用される大リーグのような厳格なピッチクロックの導入について、NPBは「未定」とするが、今後導入される可能性もある

▼若者を中心に動画の倍速視聴が広がる。限られた時間を効率的に使う「タイムパフォーマンス」を重視するためという。大リーグの改革もこの流れの一環だ。「タイムパフォーマンス」という用語すら「タイパ」と略すご時世。投手と打者の駆け引きを楽しみたいというのは古い考えなのだろうか。

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