整然と並んだ早苗が薫風にそよぐころ、ナマズは産卵の時期を迎える。小川や湖沼のほか、かつては水田も産卵場所だった。琵琶湖の辺りでは田んぼを目指して水路を上る光景が見られるという
▼県内の潟でも豊富に取れ、食膳をにぎわせた。田植えが終わった祝いに、近くで取れたナマズの煮物を出した地域もあった。貴重なタンパク源だったが、食料事情が良くなるにつれて姿を消した
▼手元の歳時記に鯰(なまず)鍋という季語を見つけた。鍋物だから季節は冬と思いきや、正解は夏だった。5~6月ごろが繁殖期に当たることから、夏の季に入れるとある。〈厠(かわや)には傘さしてゆく鯰鍋〉遠藤梧逸
▼味はやや良いとはいえ、なますやかまぼこ以外で食べるのには良くない…江戸時代に書かれた食物書「本朝食鑑」のナマズの評価は手厳しい。著者の口に合わなかったのかもしれないがどうしてどうして、全国にはさまざまな料理がある。アジア諸国でもなかなかの人気だとか
▼ウナギの代用品にされることもあるが、それ以外に活用の道を広げる動きも出始めた。岡山県の回転ずし店では養殖ナマズのネタが提供されている。養殖を手がけている会社が独自の技術で臭みを消した。しっかりした歯ごたえで上品な味と聞く
▼国連の推計では2080年代の世界の人口は約104億人に上る。人口爆発に伴い肉や魚から取るタンパク質の不足が現実味を帯びてきた。ナマズが人類の救世主となるか。各地には困った人間を助けたとの伝説が残っている。