スズメとツバメが登場する昔話がある。庄屋が倒れて危篤になる。雇われ人の一人は早く見舞おうと、スズメに姿を変える。着の身着のまま、まさに着たきりスズメの姿で懸命に飛び、死に目に間に合う
▼別の雇われ人はツバメに変身し、燕尾(えんび)服に着替えて、のんびり向かうが、もう主人は亡くなっていた。これを神様は見ていた。孝行なスズメは一生、コメを食べてよいと褒められる。見えっ張りで薄情なツバメは、ずっと飛びながら虫を食べなさいとしかられる
▼危篤になるのは本県では庄屋で、他県は親が多いようだ。共通するのはスズメが褒められること。だが、現実の世の評価は逆だ。この国ではスズメは稲を食い荒らす害鳥と嫌われる。逆にツバメは作物に有害な虫を捕食する益鳥と評される
▼中国では1950年代後半、スズメを根絶やしにする国民運動が展開された。するとバッタなどが急増し大凶作になる。スズメも害虫を食べる、欠かせない存在だったのだ
▼本県の「鳥追い唄」でもスズメやサギ、トキは悪者だ。「ドウ」と呼ばれたトキは早苗を踏み荒らし石を投げられた。国産種が絶滅した現代では、昔の害鳥が生物多様性のシンボルである。16日までの愛鳥週間のポスターも今年はトキの絵だ
▼地球温暖化が加速し生態系のバランスは崩れる一方だ。「益」か「害」かは、これまで人間が自らの都合で決めてきた。いま、最大の「害」の根源は何か。スズメやツバメに聞くまでもなかろう。猛省しなければなるまい。