「生涯現役」を体現した。燕市のやすり職人、岡部キンさんが今月、100歳で現場を退いた。やすりの表面に細かな目を刻む「目立て」の担い手として60年以上、常に一線で腕を振るってきた
▼10年前、90歳の時には美容用の新商品開発を手がけた。所属する会社の主力製品だった工業用とは異なり、繊細さが求められた。長年磨いた技術が生み出した製品は絶妙な使い勝手が評判を呼び、ロングセラーになった
▼多くを語ることはない。「みんなに大事にしてもらえて」。日々、黙々と目立て機と向き合ってきた。超のつく大ベテランとして職場の後進育成にも尽くしたと、先日の本紙が報じていた
▼岡部さんのように100歳までとはいかなくても、働く高齢者が増えている。総務省の直近の調査では、国内で働く65歳以上の就業者は10年の間に約1・5倍になった。平均寿命とともに、介護なしでも自立して生活できる「健康寿命」が伸びたことが背景にあるという
▼ただ、喜んでばかりはいられない。老後の暮らしを支える年金だけでは暮らしが苦しく、働かざるを得ない人もいる。独立行政法人労働政策研究・研修機構が3年前に公表した調査では、就労する60~69歳に働く理由を複数回答で聞くと「経済上の理由」が76・4%で最多だった
▼人生のたそがれ時を迎えても生き生きと働く人がいる。一方で、生活のために歯を食いしばるしかない人もいる。就労を希望する全ての人が、前向きな気持ちで働ける社会であってほしい。