今日は全国で、どのくらいの鬼たちが逃げ回ることだろう。「福は内、鬼は外!」。家中に歓声が響く。節分の豆まきは中国から伝わった。新春を迎えるに当たり、悪霊や災難を追い払う行事である

▼家から追い出される鬼は、冬の寒気や疫病の化身ともされる。いまオミクロン株の感染が急速に拡大する。今年の豆まきは、とりわけ気合が入りそう。ぶつけられる豆も例年以上に痛そうだ

▼「鬼」というと、想像上の怪物で、とかく悪者の代名詞になる。各地の民俗行事でも人知を超える災難は鬼の責任とされる。一方で心優しく、さみしがり屋の鬼もいると知れば、幼児も大人も社会を見る目が少しは変わるだろう

▼児童文学者の浜田広介は本県出身の小川未明とともに童話を近代文学のジャンルとして確立した。代表作の「泣いた赤鬼」は1930年代に発表された。人を敵か味方かで見るような戦時ムードが広がったころだ

▼浜田が描いた赤鬼は村人と仲良くなりたくて仕方ない。でも、お茶や菓子を用意しても遊んでもらえない。親友の青鬼と知恵を絞る姿がいじらしい。赤鬼と青鬼は一計を案じ…。泣いた読者も多いだろう

▼昨年、紙の書籍の販売が15年ぶりに増えたという。ウイルス禍の巣ごもり需要で、絵本などの児童書が好調だった。電子書籍が台頭する中、紙のぬくもりが見直された。「泣いた赤鬼」を読んで、優しい鬼もいると知った子どもも多いはず。今年の節分は鬼にも少しばかり、いたわりの声をかけてみようか。

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