以前の小欄で、この人を役者だと評したことがあった。今回のサプライズ的な来日も役者としての面目躍如だろう。ウクライナのゼレンスキー大統領が、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に対面出席するため広島の地に立った

▼当初はオンライン参加とされていた。電撃来日は、効果を計算して周到な準備を重ねた上での行動だったはずだ。来日を巡っては、脚本家や演出家の役割をこなす人物も存在するのだろう。何といっても元は喜劇俳優である

▼ロシアの侵攻を受けた当初の映像を思い出す。「われわれはここにいる」。側近と共に首都で自撮りした動画を交流サイト(SNS)に投稿し、国外脱出を否定して国民を鼓舞した。侵攻すれば政権幹部は逃亡し、早期に首都を制圧できると踏んでいたロシア側の思惑は頓挫した

▼戦時下だけに、その言葉には戦術的な策略や心理戦の要素も含まれているはずだが、自身の言動が情勢にどんな影響を与えるかを入念に検討している様子がうかがえる。ウクライナ軍は近く反転攻勢に出るという

▼きょうは首脳会議でG7のリーダーと渡り合う。サミットにはインドなどウクライナ支援と距離を置く新興国も招待されており、この機会に協力を深める狙いもあるようだ。役者ぞろいの各国首脳を向こうに回し、どんな姿を見せつけるのか

▼舞台の広島は原爆の惨禍に見舞われたが、復興を遂げた。自国の未来が広島のようであってほしいとの思いもあるはず。その言動を世界が注視する。

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