「かっこいい」という言葉遣いが一般に広まったのは意外と遅く、1960年代らしい。軍や楽隊では戦前から使われていたようだが、60年代に急速に普及したテレビを通じ、多くの人が使うようになったという
▼「かっこ」は、姿形や身なり、体裁や世間体を意味する「格好」や「恰好」が転じたものだ。「かっこいい」が広まるまでは「格好を整える」「格好がつく」といった表現が一般的だったようだ
▼さて、この一件は取りあえず「格好を整えた」という表現がしっくりくる。LGBTなど性的少数者に対する理解増進法案について、与党が修正案を国会に提出した。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の開催に間に合うよう提出し、性的少数者の権利保護に消極的との指摘をかわす狙いがありありだ
▼国際社会での世間体を気にしたのだろう。ただ提出を急ぐあまり、保守派の理解を得ようと修正した部分は、差別に苦しむ当事者から「大きな後退」「改悪」と反発を呼んでいる
▼「差別は許されない」との文言は「不当な差別はあってはならない」に差し替えられた。不当でない差別などあるのか。誰かが不当でないとみなせば、許される差別もあるというのか
▼法律の文言を盾に、訴訟が頻発するとの声もある。では、なぜこの法律が必要なのだろう。性自認で苦しむ人が存在するからではないのか。そうした人の権利を守ることが法整備の原点だ。外聞を気にして体裁だけ整えるなら「かっこいい」とはとても言えない。