本紙「まいにち ふむふむ」に、詩人で作家の宮沢賢治が農業をテーマに書いた文章が載っていた。「おれたちはみな農民である ずいぶん忙がしく仕事もつらい もっと明るく生き生きと生活する道を見付けたい」
▼「農民芸術概論綱要」の序論の一節だ。賢治は大正時代、学校で農業を学んだだけではなく、農業を教えた人でもある。それにしては、あまりに悲しい物言いではないかと気になった。文庫本で9ページ分の全文を読んでみた
▼「強く正しく生活せよ 苦難を避けず直進せよ」「なべての悩みをたきぎと燃やし なべての心を心とせよ」。序文とは対照的な、農民への励ましの言葉が、いくつかちりばめられていた。少し胸をなで下ろした
▼先日、実家で田植えの手伝いをしてきた。ビニールハウスの中で、たくましく育った苗の緑は目にまぶしい。ずらりと並んだ苗箱を軽トラックに積むため持ち上げた。ずしりと重く、二の腕がきしんだ。ハウスの中は朝から蒸し暑い。顔からどっと汗が噴き出して、あごから滴り落ちた。コメ作りの中でも、きつい仕事の一つだろう
▼「風とゆききし 雲からエネルギーをとれ」。青田を吹き渡ってくる心地よい風を浴びる。大空を見上げて、白雲をしばし見つめる。疲れた体に力がみなぎってくる。賢治は、そう言いたかったのだろうか
▼凡人には、風と雲だけではどうも物足りない。たっぷり湯を張った風呂と、ギンギンに冷えたビールが欠かせないような気がする。さて、どうだろう。