「水戸黄門」で印籠を出すシーンのように、時代劇にはだいたいお決まりのパターンや決まり文句があった。毎回同様だが、放映中にそれを見ないと何だか損をしたような気分になったものだ

▼「隠密同心、心得の条」と銘打ち「死して屍(しかばね)拾う者なし」。こんなフレーズが何度も出てきたのは、1970年から長年放映された「大江戸捜査網」である。成敗する悪役の所へ向かう場面のナレーションで流れていた

▼主人公らは幕府の命を受けた隠密。失敗は許されず、たとえ返り討ちに遭って命を落としても放っておかれ、無縁仏になってしまうのだろう。悲哀を感じた場面でもあった

▼亡くなっても引き取り手のない「無縁遺骨」が増えているという。隠密同心を連想させるような記事が先日、本紙に掲載された。総務省の調査では、2021年10月末時点で全国の自治体に計約6万柱が保管されていた。回答した市区町村数が異なるため単純比較できないが、約3年半で1・3倍になり、今後も増加が予想される

▼市町村が遺骨を保管するのは、身寄りのない1人暮らしの高齢者が死亡すると遺骨の引き渡し先が見つからないためだ。増加の背景には独居の高齢者が増えていることが大きい

▼中には、親族が見つかっても引き取りを拒否されるケースもあり、何ともやるせない。さまざまな事情があってのことかもしれないが、人間関係が希薄になった世情の一端が垣間見える。  「死して屍拾う者あり」 。そんな温かな社会になってほしい。

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