ドイツが東西に分かれていたころ、ベルリンの壁近くで野外コンサートが開かれた。スピーカーのいくつかは観客席ではなく、壁に向けられた。その先には西側の文化や自由な社会の空気を求める旧東ドイツの若者ら数千人が集っていた

▼「壁の向こうの友人のために」。ステージに立った英国のアーティスト、デビッド・ボウイさんは「ヒーローズ」を歌い出す。レコーディングでベルリンを訪れた際に見た、壁や監視兵の姿から着想を得た曲だ

▼東側の大合唱が本人の耳にも届いたという。数年後、民主化のうねりは壁を消滅させた。2016年のボウイさん死去の際、ドイツ外務省は「壁の崩壊に力を貸してくれてありがとう」とツイートした

▼そんな伝説も受け継がれることになるのか。「ヒーローズ」を含む、ボウイさんの全楽曲の権利を米音楽大手グループが取得した。背景にはネット経由の定額聴き放題サービスの拡大があるようだ。往年の名曲を聴く人が増え、音楽業界ではそうした曲の所有権の価値が上昇しているという

▼近年はボブ・ディランさんやブルース・スプリングスティーンさんらも権利を売却している。彼らを知らない若い世代が名曲に触れる機会が増えるのかもしれない

▼先月の本紙「おとなプラス」に掲載された米国のヒットチャートには、1980~90年代のクリスマスソングが並んだ。新たなサービスの台頭で幅広い層に聴かれているのだろうか。懐かしの名曲が、最新ヒットに生まれ変わったらしい。

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