SF映画に登場する未知の惑星にいるようだった。足元には無数の穴が開いた緑色の岩。視界いっぱいに荒涼とした景色が広がる。佐渡の二見半島で見られる「隆起波食台(りゅうきはしょくだい)」という地形だ

▼佐渡は、太古のプレート運動や火山活動による地形が残る自然公園「日本ジオパーク」に認定されている。隆起波食台は約2300万年前に形成された岩。光景に圧倒されていると「天気次第で岩の色が違って見える。キラキラ光ることもあるよ」とガイドさんが教えてくれた。3億年前の地層が見られる場所もあるという

▼佐渡といえば金山やトキ、たらい舟などが定番の名所だが、最近は貴重な地形をはじめ、観光の選択肢が広がっている。若い世代にはおしゃれなカフェや写真映えするスポットを巡るのが人気だ

▼その一つが真野地区の背合(せなごう)バス待合所。晴れた日、海沿いにある白い壁の建物を写真に収めるとまるで海に浮かんでいるように見える。交流サイト(SNS)で話題を集め、多くの人が訪れる

▼昭和から平成にかけては団体旅行が多数で「質より量の観光」と言われた。佐渡の観光客は一時、年間120万人を超えたが、競争激化や旅行スタイルの多様化で減少し、感染禍の2020年は25万人に落ち込んだ

▼新型ウイルスの5類移行で旅行者は戻りつつある。変化がめまぐるしい時代、佐渡のゆったりした時間自体が観光資源かもしれない。縄文の人、江戸の人はこの海や夕日をどう見たのだろう。思いをはせて岬に立つのも楽しい。

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