冒険と無謀の線引きは難しい。誰もやったことのないことに成功すれば冒険として称賛される一方、失敗すれば無謀のそしりが待っている

▼冬季シベリアを自転車で単独横断するなどして「植村直己冒険賞」を贈られた安東浩正さんは、ある冒険家から気球による太平洋横断に誘われたことがある。大学で流体力学を専攻した安東さんは、その気球の設計では横断は無理と判断した

▼安東さんを誘った人物は納得せず、単独で出発したが行方不明になった。自然を相手にする冒険はリスクを伴う。しかし、安東さんは「冒険家は無謀だと判断したらやらないのではないか。少なくとも僕はやらない」と話している(「BE-PAL(ビーパル)」2022年12月号)

▼今回のケースはどうだったのか。水深約3800メートルの海底に沈んだ英豪華客船タイタニック号を探索するツアーの潜水艇が消息を絶った。海中からは破片が見つかっており、水圧でつぶれたとみられる。乗っていた5人の生存は絶望視されている

▼この潜水艇の安全性には、以前から疑問の声があったという。米国を拠点とする海洋技術学会は、事故の危険性を警告していた。ツアーを企画した会社が、追加検査を進言した元従業員を解雇していたとの報道もある。元従業員は、潜水艇前面の窓部分は水深1300メートルまでしか安全性が担保されていないと指摘していた

▼悲劇は起こるべくして起きたのだろうか。現時点の情報を見る限り、冒険というより無謀の色がかなり濃い。

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