ウクライナでの戦闘の陰に、2人の作曲家がいるとでも言えようか。多くの名オペラを残し、勇壮な曲調の印象が強いワーグナーと、優美な宮廷音楽で名をはせたモーツァルトである
▼ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の名称の由来はワーグナーとされる。金で雇われた傭兵(ようへい)の集団だ。減刑を条件に集めた受刑者も多く、約5万人がロシア正規軍を支えてきたという。前線の肉弾戦に投入され、この半年で約1万人が死亡したとも言われる
▼虐殺や拷問行為で各国の批判を浴びる。しかしロシア当局は組織の存在を認めず、戦死扱いすらされない。創設者は国防省などへの反発を強め「武装反乱」を呼びかけたとの情報もある
▼一方、米国の退役軍人らがウクライナで立ち上げた組織が「モーツァルト」。「ワグネル」を意識した命名である。寄付金を頼りに、同国東部で民間人救護や食料供給に加え、新兵の訓練までしている
▼ウクライナには数十カ国から義勇兵が集まり、サイバー空間で支援するハッカー集団もある。日本でも当初、在日ウクライナ大使館の呼びかけに応じ、約70人が義勇兵に志願した。日本政府は制止しているが、戦地には10人ほどの邦人義勇兵がいるとの証言もあり、死者も出ている
▼歴史上、戦争に傭兵や義勇兵が投入されることは幾度もあった。戦闘の様相が複雑化することもあったようだ。ワグネルの「反乱」はウクライナ情勢に何をもたらすのか。これ以上悲惨なメロディーが流れないよう祈りたいのだが。