1876年7月、一人のロシア人地理学者が日本の地を踏んだ。約5カ月をかけ、本県を含む全国を歩く。同様に本県も訪れて「日本奥地紀行」を著した英国人旅行家イザベラ・バードが来日する2年前のことである

▼名をアレクサンドル・ワイコフという。世界を巡って研究に励んだ。ワイコフに詳しい新潟大非常勤講師の中谷昌弘さん(54)は「バードに比べて資料が少なく、その存在はほとんど知られていない」と話す

▼気候、人々の気質、街並みの様子、貿易…。本県には1週間ほど滞在して専門外のこともつぶさに調べた。それらを帰国後、論文にまとめ発表した。日本での旅程は岡田章雄編「外国人の見た日本」に紹介されている

▼そのワイコフが新潟を「大阪の郊外のよう」と評しているのは興味深い。いずれの街も舟運による国内貿易で活況を呈した。多くの堀や橋もあった。全国を巡る中で、天下の台所との共通点を見いだしたのか

▼大阪・関西万博の開幕まで2年を切った。想定来場者約2820万人、経済効果は2兆8千億円を超えるとの試算もある。6400万人が訪れた1970年大阪万博の再現をとばかりに、財界を中心に活性化の期待が膨らむ

▼ワイコフは、大阪も新潟も格別に商業的な特徴を有するとも指摘している。往時のにぎわいを取り戻すことはできるか。万博の会場予定地では工事のつち音が響く。本年度の関西域内総生産の実質成長率は国内全体を上回るとの見通しも出た。その活気をぜひ新潟にも。

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