常識は時に覆る。一例がイノシシの生息域だ。脚が短く、体重が重いため、雪が多いと体が埋まって動きにくいと考えられてきた。30センチ以上の積雪が70日以上続く雪国では生息できない-。以前はこうした見方が常識だった
▼それがどうだろう。近年では本県でも各地で出没が相次ぐ。山林から離れ、人が多い市街地に現れるのも珍しくはなくなってきた。新潟市で本年度に入って確認されたのは6月25日現在で51件に上る。昨年度の同時期の3倍近くにもなった
▼本県では、いつから現れるようになったのだろう。本紙データベースをさかのぼると、2000年に県内で出没が相次いでいるとの記事が載っていた。この時点では1995年に湯沢町で捕獲された例があると紹介する一方、日本海側では富山県以北での生息例は確認されていないとしている
▼記事が掲載されてから20年余り。いまや本県でも、ある程度定着したとみるべきなのだろう。暖冬の年に他県からやって来た個体がすみ着いたという見方がある。全国的にも生息域を広げているようだ
▼宮崎駿監督のアニメ映画「もののけ姫」には、イノシシの大群が登場する。森にすむ神獣を狙う人間と戦うため、九州などから集結する。人間が自然に敬意を払わず、欲望のままに自然を略奪しようとするのに対して怒りをあらわにする
▼現実の世でもどこかからやって来たイノシシたちは、人間に何かを訴えようとしているのかも。訴えを聞き取れるかどうかは人間次第なのだろう。