ブーゲンビリアの濃いピンク色の花は真っ青な空がよく似合う。出張で降り立った宮崎ブーゲンビリア空港は、名前の由来の花に彩られ、明るく南国そのものだった
▼空港の出入り口には青いマットが敷かれていた。陽気な雰囲気に不似合いだったのは、そこに「防疫マット」と書いてあったからだ。踏むと消毒液がにじんだ。家畜伝染病である口蹄疫(こうていえき)の水際対策という
▼韓国で口蹄疫が発生し、日本でも警戒が強まっている。過去に日本で確認された際は、その前に韓国で発生していることが多かったためだ。日本で最後に発生したのは2010年。宮崎県で爆発的に拡大し、29万7千頭もの牛や豚が殺処分された
▼当時を伝える口蹄疫メモリアルセンターを訪ねた。胸が詰まったのは、祖父母が手塩にかけた牛たちの最期を見届けた日をつづった、中学生の作文だ。殺処分の前夜に生まれた子牛のことが書かれていた
▼翌日、処分が始まると注射1本で大きな牛たちが次々と倒れた。「希望」と名付けられた子牛も例外ではなかった。母牛に甘え、走り回っていた希望が、生きることを許されたのはわずか17時間52分。「祖父母も獣医さんも希望も私も風や木さえも。泣いている」
▼昨年から猛威を振るった鳥インフルエンザは、国が「清浄化」を宣言した。口蹄疫と同様、本県でも多くの生産者や殺処分に関わった人たちが、深く心を痛めた。悲劇を繰り返さないように、できる対策に力を入れねば。失われた多くの命に報いるためにも。